Strange Creators of Outer World/Introduction of Previous Works/Scarlet Weather Rhapsody/Fragment of Phantasy 1

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幻想のもと①
Fragment of Phantasy
東方Projectにちりばめられた、様々な幻想の欠片を覗き見るコラム。
今回はライター塩田信之氏が、「緋想天」にまつわるモチーフを紐解いていく。
まずは最近出番が増えてる「天人」について――。
天界と天人たちの伝説
天界に天人が住むという考え方はとても古くからありますが、元を辿れば大陸から伝わってきた考え方のようです。わかりやすい例として挙げられるのが神社に祀られている神様で、最高神にして太陽神たる「アマテラス」をはじめとする「天津神」と呼ばれる神々は、「高天原」と呼ばれる天上の世界に住んでいます。そんなアマテラスの孫にあたるニニギが「天孫降臨」して地上を治めるようになったというのが、日本の神話に描かれている国家の始まりです。現在「日本の象徴」存在とされる天皇はニニギから連綿と続く血統ということになっているわけですから、天界が本当にあって天人も存在していることになるわけですが、あくまでも神話上のお話なので鵜呑みにできるわけではありません。
神話の受け取り方は人によってさまざまですが、天孫降臨については当時の先進国の人々が海を渡って日本にやってきたという事実をファンタジックに表現したという見方が一般的と言っていいでしょう。神話の中でもニニギは稲作の技術を携えていたとありますから、その技術を持たない人々から見れば神のように思えたのかもしれませんし、やってきた人々が実際に「我々は神の一族だ」と言っていたとも考えられます。それでは、神話で高天原とされた天孫たちの元々いた場所はどこなのでしょう。手掛かりとなるのは、よく「邪馬台国がどこにあったのか」という話題に出てくる当時の中国の史書、通称「魏志倭人伝」に記された邪馬台国までの行程です。そこには韓国から海を渡り、対馬と壱岐を経て、末慮国と呼ばれる九州北部にあったと思われる地域に到達します。邪馬台国へはそこからさらに行程があるのですが、ここでは現在の韓国から九州に渡るルートが確立されていたことさえわかれば十分です。ちなみに神話には天孫降臨以前にも日本へやってきた神がいて、乱暴狼藉を働いて高天原を追い出されたスサノオ、オオクニヌシに国譲りを迫るタケミカヅチは島根県に降ったとありますから、そちらは隠岐を経由するルートだったのかもしれません。どちらにしても、韓国あるいは中国に高天原があったと考えるのが自然でしょう。
羽衣をまとった天女たち
さて、日本で天人といえば「天女の羽衣」の昔話に代表される、人間の男と結ばれる天女の物語がまず思い浮かぶのではないでしょうか。羽衣と呼ばれる薄布をまとって空から降りてくる美しい女性のイメージです。どうして地上にやってきたかといえば、水浴びをするためだったり温泉に入るためだったり、場合によってはいい男を捜しに来たりと物見遊山の観光客みたいな理由が多く、水浴びの間に羽衣が盗まれたりして天に帰れなくなるとあっさり地上に留まって現地の男の嫁になってしまいます。地上で子供も産まれて貧乏なりに幸せな暮らしを送っていると、子供が隠してあった羽衣を見つけたりして男に別れを告げて天界に帰ってしまうというのが大体のパターンで、詳細の異なるいろんなバージョンがあります。子供はいなかったり、残される場合もあれば連れ去られてしまう場合もあってさまざまです。
そんな天女伝説も、やはり中国や韓国から伝わってきました。しかもそれは、七夕の「織姫と彦星」の物語と関係が深いようです。中国ではとても古くから七夕の伝説があって、二世紀ころの書物にも記述が見られます。日本から遣唐使が渡っていた唐の時代には、その二次創作のような物語も流通していました。織女と牽牛(中国での呼び方)はすでに年に一度しか会うことが許されない状況で、織女はその制限を課した父(あるいは祖父)である天帝から「地上に遊びに行っても良い」との許しを得て地上に降ります。黒と白の薄絹をまとって天から降りてくる姿はまさに天女そのもの。目的地は地上で賢く美しいと評判の若者の家で、名乗った次の瞬間にはひとりが寂しいので一夜の契を交わしたいとあけすけに願い出ます。織女は翌朝天に戻るものの、その後も毎晩のように逢瀬を重ね、男は牽牛と夫婦であることを知っているから嫉妬し束縛しようとします。しかしやがて織女から別れを告げられ関係は終了。織女は天井と地上では倫理観が違うと言い、不倫関係を悪いとは思っていないようですが、若者への愛情も本物だったようでその年の織女星(琴座のヴェガ)は光を失ったという物語です。
日本の天女の物語にも、天上に夫がいるから帰りたいのだが、帰れないからしかたなく地上で暮らすパターンがあります。また島根県に伝わる天女伝説には、天女が天に戻る際に天にまで届く木の育て方を教えて追ってこれるようにする「ジャックと豆の木」みたいなパターンもあって、天上で暮らすようにはなるけれど、男がいいつけを守らなかったせいで天女とは一年に一度しか会えなくなってしまう七夕の由来話にもなっていたりします。
インドの天女アプサラス
中国の織女は、中国三大宗教のひとつとされる道教で信仰されている天帝の親族で、後にはやはり道教の女神である西王母の親類になったりもする神仙です。中国の天女像はいわゆる「仙女」とほとんど区別がつかないほどよく似ていて、ぶっちゃけかなり混同されています。仙人・仙女が住む「桃源郷」とも呼ばれる「仙境」も、いわゆるの世界観にありますが、やはり中国で信仰される仏教からの影響も色濃く感じられます。そもそも道教は中国周辺のさまざまな宗教を取り込んで発展してきた歴史があって、後には『三国志』の関羽はおろか『西遊記』の孫悟空など空想上の存在ですら神として取り込んでしまう柔軟性の高い宗教です。釈迦や弥勒に阿弥陀や観世音だって後に道教の神として採用されていますし、仏教とはもともと親和性が高かったのでしょう。
仏教はインド発祥ですが、時代によっていろいろ変化はありますがヒンドゥー教に比べれば少数派です。初期の仏教は厳しい修行を通じて悟りを開くことを目的としたもので一般の人々には不人気でした。中国に伝わったのはそんな初期の仏教で、儒教思想とも結びついて独自に発展します。そのころ本家のインドでは「もっと優しくしないと一般人がついてこない」という宗教改革が起こり、インドの古い宗教(ヒンドゥー教の元になったバラモン教など)を見直していました。それが大乗仏教や密教という形に発展していくことになります。『西遊記』は実在した玄奘三蔵が六世紀にインドまで「新しい仏教の教え」を取りに行った旅をエンタテインメント化したもので、これにより密教が中国にもたらされたとも言われています。密教には性的な要素もあったりして、儒教思想の強い中国では受け入れに抵抗もあったのですが、反面喜んだ人々も少なくなかったはずです。そして、遣唐使の一員として中国に渡り、最新の仏教を学んで日本に戻った最澄と空海が伝えたのも、密教の要素が多分に含まれた仏教でした。
天女の原型は、インドの古い神話に登場する「神々のために踊る海の精」アプサラスと呼ばれる半分女神の妖精的存在です。やはり天上の世界に暮らすとされ、羽衣のようなものをまとって飛び、地上に降りて人間の男と結ばれる物語もあります。ほぼ同様の存在としてペルシアのゾロアスター教にはペリという天女がいますし、イスラム化した後にもフーリーという男性が死後に訪れる天国で歓待してくれる女性もいます。アプサラスには主神であるヴィシュヌの妃であるラクシュミが含まれていたりしますが、こうした各地の天女たちはそれぞれの伝承にやはり人間の男と結ばれるエピソードがあります。またアプサラスには主神であるヴィシュヌの妃であるラクシュミが含まれていたりしますが、こうした各地の天女たちはそれぞれの伝承にやはり人間の男と結ばれるエピソードがあります。またアプサラスにはガンダルヴァという夫たちがいて、神々に音楽を聞かせる「天上の楽神」とされるキンナラとキンナリーの夫婦神にも天人・天女の要素が見られ、織女や天女たちに天上の夫がいる設定にも通じます。こうした天人たちが密教の発展とともに仏教の守護神と考えられるようになり、仏像が造られたり曼荼羅に描かれたりし、それが中国や日本にも伝わっていきました。仏教の吉祥天や、日本神話のアメノウズメなどに、そんな影響が感じられます。
翼を持つ人たち
ところで、天人のイメージに非常に近い存在として、翼を持つ人々がいます。いわゆる天使がその代表ですが、これらにもインドやペルシアの天女たちがルーツとする考え方があります。キリスト教やイスラム教はユダヤ教から派生した宗教ですが、ユダヤ教が唯一神を信仰する宗教となった背景にはユダヤ民族の多くがバビロニアに囚われ奴隷に近い立場となった時代があって、その時にペルシアのゾロアスター教を知ったからだという考え方です。諸説ある中のひとつではありますが、ゾロアスター教がインド・ペルシアの古い宗教をベースにアフラ・マズダーという唯一神を信仰する唯一神教に改革したもので、古い神々は「ヤザタ」と呼ばれる天子に近い存在に変わっていきました。聖書に描かれる天使たちに個性があったり、人間の女と子供を作ったり、自尊心の強さが元で堕天使になったりといった出来事も、かつてはそれぞれが神や天人であったことに由来しているのではないかと考えられます。
また、翼あるいは羽を持った人形の神々はオリエントやエジプト、ギリシア神話などにも登場します。例えばギリシア神話に登場する半人半鳥のハーピーなどは、怪物的に描かれるけれどやはり人間と子供を作ったりするところなど天女の要素が見られます。日本でも迦陵頻伽 (かりょうびんが) と呼ばれる半人半鳥の生き物が伝わっていて天女や天界と関係が深い存在であることが『御伽草子』の「梵天国」に描かれていることなど興味深いものといえます。ミスティア・ローレライは四国などに伝わる妖怪「夜雀」とされますが、これもまた日本のハーピーと言えますし、ローレライはドイツに伝わるセイレーンと呼ばれる人を惑わす妖精の一種の名前です。元々海の精から発展した天女たちは、人魚とも関係の深い存在です。